1999年11月号
メビウスの輪 星 期一
二、私立探偵 「それはおかしいですね。」 野馬も何か言いたそうだった。 「正司さんがどうして自殺するんですかねえ。」 「そうだよ。」 そこへ母親が割り込んでくる。 「イタコの口寄せでもやったら、正司が出てきて、何か教えてくれないかねえ。」 「ダメだよ、イタコになんか出てこないよ。そういうのに出てくるのは狐とか狸だから。」 「そうかね。」 数日経ち、初七日に集まった正司の友人は野馬、原田の二人だけだった。死ぬまでのことを少し整理してみよう。山沢は二人と一緒に、これまでのことを振りかえってみる。 正司は風邪をこじらせて一週間寝ていて、仕事も休んでいた。前日は、次の日がコンサートだからと風呂に入り、朝早いからと早々に床に就いた。その日の朝は早く起きたが、気分はすぐれなかったのだろう。早く直そうと風邪薬を沢山飲んでフラフラになっていたのか。そして、少し良い空気でも吸おうと外に出たのではないか。 そこまで話が進むと、野馬が 「ひょっとして、あれ、マズかったかなあ。」 「何かあったの?」 「正司さんも入ってたミホのファンクラブ。」 「うん、トラブルがあったとか聞いたけど。」 「トラブルもそうですけど、会報に変なこと書いちゃったかなあと思って。」 山沢は正司の机から会報の入った袋を持ってくると、中身をぶちまける。どれだ、どれだ?野馬が探し出す。あ、これこれ。 『歩道橋から遠くを見たい時ー。気分の悪い時ー。気分の悪い時ー。風邪を引いた時。』 なかなか上手い絵も添えてあって、人気タレントのパクリか。 「正司さんも、これ見て、遠くを見たくなったのかなあ。」 |
ちょっと現場へ行ってみるか。三人は階段を上り、最上階の踊り場へ。現場で手を合わせると、山沢は手摺から外を覗いてみる。
「あ、富士山がちょっと見える。」 野馬と原田も順に覗いてみる。 「あ、本当だ。」 「見えました。」 まず最初に、事故という可能性を考えてみよう。風邪でフラフラ。薬飲んでボーッとしている。歩道橋の話が頭にある。身を乗り出す。バランスを崩して落っこちる。ありそうだ。 次に、自殺の可能性はどうか。自殺しなきゃならない必然性がないし、第一、原因は何だ? 「ミホ関係でトラブルがあって、悩んでた時もありますよ。」と野馬。 「そうだな。確か、小松とか言ったっけ。」 「そう、小松正夫です。」 「でも、それで自殺まで追い込まれるかな。」 「うーん。」 「昔のことだけど、イジメとか不良のことは、関係あるのかな。原田君、知ってる?」 「中学の友人なら、イジメで自殺とか思うかもな。高校デビューだし。高校の友人だったら、チーマーの争いに巻き込まれたって思ってるかも。」 「そうか。あと、井戸ちゃんのやってた検討会さあ、かなりしつこかったけど、関係ないかな。」 日蓮真宗検討会という新興宗教団体。サリンを撒くようなことはしないが、入信を強引に迫る姿勢が社会問題となっている。山沢の父親も一度マジで切れて、怒鳴って追い返したことあった。 「そういえば、正司君、変なこと口走ってました。」と原田。検討会と関係あるのか。 ミホの件でトラブルがあって、悩んだ末に自殺。岡田有希子のように後追いというのならあるかもしれないが。日蓮真宗検討会に強引に迫られたと言っても何年も前の話だし、関係ないだろう。 逆に、トラブルが高じて殺人と言うことはないのか。恨みを買っていたとか。 「恨みを買ってボコボコにされたとしても、ああいう殺され方はしないでしょ。」 |
確かに、突き落としたのでなければ、マンションから落として殺すというのはなさそうだ。
大学の友人が全然来てないけど、何でだ。大学、怪しくないか。サークルの会長がガメツイってことは聞いてたけど、それも昔の話だし。女のトラブルも、別に聞いてないぞ。ミホ関係の女の件は、一つだけ聞いてるけど。 初七日も済み、山沢は正司の職場で割と親しいおじさんがいるとか言ってたのを思い出した。選挙に出るからと仕事辞めて、結局落選して正司と同じくバイトで暮らしているという。 正司の名刺入れを探ってみた。 『心に爽やかなそよ風を 江頭メンタルセンター 所長 江頭』 名詞のキャッチフレーズが笑うセールスマン的だなあ。山沢はこの人に電話してみる。 「もしもし、山沢と申します。」 「ああ、山沢君のお兄さんですか。」 「はい、そうです。」 「山沢君は、仕事、良くやってましたよ。同じ班なんで、割と話したんですけどね。」 「はあ、そうですかる」 「仕事で行き詰まってるとか、人間関係が悪いとか、職場では特に問題はなかったですけど。ただ、私生活でちょっと悩んでいるようでした。」 「そうですか…。風邪で寝込んでるのは知ってましたけど、悩みがあったとは。」 「子供の頃にイジメに遭ったり、逆に不良になったりと、色々あったようですね。」 イジメや不良の話は、中学、高校の同級生、原田が詳しいだろう。 「ご存じないと思いますが、会社は団体保険を掛けてたんですよ。見舞金は出たと思いますけど、実は、会社には保険金が沢山おりてます。」 保険金殺人といえば、トリカブト事件やカレー事件などがあったな。しかし、まさか、大手企業がそんなことはしないだろう。 「何故、そんなこと知ってるんですか。」 「担当の保険屋さんが言ってましたよ。」 その時、山沢の頭の中にある人物が浮かんだ。 つづく (C)一九九九 星 期一 |
大企業と戦う
非を認める優良企業 この間、すっかり眠っている夜中の12時頃、突然電話が鳴る。何事かと思えば、某生命保険会社からであった。無茶苦茶だ、こんな時間に電話してくるなんて。さすがの某クレジット会社でも、そんな非常識なことはしないぞ。この続きはまた今度。
某スーパー
某焼肉屋
|
で、ほどなく食事券は送られてきた。
某電話会社
某旅行会社
|
しばらくとは何分くらいだろう。3分経過。うーむ、5分くらいかな。そして、5分経過、10分経過、ついに20分経過。その後、用があるのでどうしようと思っていると、突然切れた。携帯で20分もかけてるんだ、料金はどうなるんだよ。
そこのお客さま相談係に苦情を言ったところ、その後、この日ならば空いていますというFAXが送られてきた。苦情に対する回答になっていないと言うと、ご迷惑をおかけしましたからと、安い料金で予約することができた。 間違いをしたら、間違いは間違いと素直に認めてくれよ。ここで更にお詫びの品までもらってしまうと、「まあまあ、人間誰でも間違いはあるさ、気にすんなよ」と声をかけてやりたくなりますね。間違いがあったときは下手に出ろ、というマニュアルがあるんでしょうか。某クレジット会社にはマニュアルがないんでしょうか。まあ、バケツを使えというマニュアルがないだけ、ましかもしれません。
|