1999年12月号
メビウスの輪 星 期一
三、ミホ親衛隊 そうだ、クローバー電器の社長が、探偵やってるんじゃん。江頭氏との電話を終えると、早速クローバー電器へ山沢は行ってみる。 「おう、山ちゃん。お前んところの弟、死んだんだってな。いくつだよ。」 「二十三です。」 「そうか。まだ若いなあ。」 「ええ。何か、納得いかないんですよ。」 山沢は、これまでの経緯や、怪しい点を説明した。保険金殺人の可能性も出てきてしまった。山沢、原田、野馬の三人で推理したけれども、事故、自殺、殺人、どれも決め手はない。携帯のメモリが全て消えていて、手帳も一週間くらい前の日付から破られていた。 「よし、分かった。俺が知恵は貸してやるから、お前、自分で調べてみろよ。」 「ありがとうございます。」 「最初は、身近な所からあたってみるんだな。」 まずは、ミホ親衛隊から捜査開始といくか。 野馬に連絡し、ミホ親衛隊の隊長、小松に会いたいと伝える。 「小松に会うんですか。」 「とりあえず。」 「じゃあ、次のコンサート、行きますか。」 数日後、コンサート会場へ行ってみる。山沢は中へは入らず、終わるのを待っている。二時間程待っていると、会場からぞろぞろ人が出てくる。そんな中、騒いでいる一団がいる。あいつらが親衛隊か。そう思っていると、一団の中に野馬もいた。その隣にいるのが小松のようだ。 「どうも。こちらが山沢のお兄さん。」 正司から聞いていた通り、ふてぶてしい態度。でも、単純な奴のようだ。ここは下手に出ておこう。 「初めまして、山沢です。」名刺を差し出す。 「ああ、どうも。ミホ親衛隊隊長、小松です。」 「わざわざ、どうも。」 立ち話も何だから、居酒屋へでもと誘う。野馬が 「あ、俺飲めないっすから、ファミレスにしてくれますか。」 |
小松はそれを聞いて、チェッという顔。野馬はしてやったり。どうやら小松に飲ませてはいけないようだ。これはマズかった。
近くのファミレスへ。オーダーを取ってから 「あのう、親衛隊とか、よく分からないんで教えてくれますか。」と山沢。 ミホには公認の親衛隊というのはない。ファンクラブも事務所がやっているのではなく、レコード会社がその他大勢でまとめた中に「ミホ’sクラブ」というのがある。それに対抗する訳ではないが、私設親衛隊「ミホ親衛隊」を仕切っているのが小松だ。 「山沢君も、悪い奴じゃなかったんだけどね。」 正司はクラブの支部長をやっていて、親衛隊との対立もあったと聞いている。山沢が突っ込む。 「抗争でもあったの。」 「そんな、チーマーじゃないっすよ。」 「悩んでたとか、知らない?」 「そんなヤワには見えなかったよな。逆に、ちょっとシメたいくらいの奴だったな。」 「恨みを買ってたとか。」 「ひんしゅくは結構買ってたけど。」「アイドルの追っかけって、オタクみたいな奴とかいて、何か、怖いイメージだけど。」 「山沢君だって、そうじゃないっすか。」 後は雑談をしながら、その他、二、三人の名前を聞くことができた。一時間程すると、小松は行く所があると帰っていった。野馬が 「山沢さん、何か分かりましたか。」「いや、さっぱり。親衛隊と対立してるって聞いてたけど、そんな感じはしなかったな。」 「じゃあ、正司さんがクラブを除名になった理由、聞いてないんですね。」「親衛隊といざこざを起こしたとか。」 「親衛隊は、多分、関係ないです。」「あれ、対立してたんじゃないの。」「ちょっとしたトラブルはあったみたいだけど、正司さん、割と小松とは親しかったから。」 「そうか。」 逆に、クラブの方からは親衛隊側の人間と見られていた。そんな中、クラブの名を語り、色々な悪さをしているという噂が流れ、除名されたのだ。 |
「正司は嘘だって言ってたけど噂は本当なの?」
「火のない所に煙は立たず、ですよ。」 噂とはいえ、全て出所は正司だったようだ。 「そうか。小松が怪しいと思ってた。」 「あいつ、完璧なアリバイありますよね。」 「前の晩から泊まりで行ってたんだからな。」 結局、小松と会っても何の収穫もなしか。何人かの名前が出たけど、それは誰だ。 「実は、クラブの方が怪しい奴いますよ。」 「それ、小松が言ってた奴か。」 「もっと怪しいのが二人。」 「それは、誰だい。」 「たいやきくんと、だんご3兄弟ですよ。」 「たいやきくんと、だんご3兄弟?」 そんな、子供向けの歌をペンネームにされたって、分からないよ。野馬が説明を始める。 たいやきくんの本名は豊田。同じ日の消印で、北海道に山形、そして九州と、日本全国から手紙を出してくる、神出鬼没の奴。職業は公務員らしいが、その素性は決して明かさない。 だんご3兄弟の本名は川下。ゲーセンで電車でGOばかりやっていて、司法試験に落ちてばかり。電話をし出すと何時間も止まらない。司法浪人でバイトもやってないプー太郎。 「ああ、豊田さんと川下さんか。名前は聞いたことあるけど、そんな怪しい奴なんだ。」 豊田さんはマントを着ていると正司が言ってたのを思い出したが、それはコートの間違いだろう。 「葬式、二人とも来てた?」 「来てましたよ。あ、今日も来てますよ。」 「本当?今、どこにいるのかな。」 「ちょっと電話してみましょう。」 野馬が川下の携帯に電話すると、二人とも近くのカラオケにいるという。よし、会いに行こう。カラオケルームに着くと、目のトロンとした川下と、目つきの鋭い豊田がいた。 つづく (C)一九九九 星 期一 |