2000年1月号

<メビウスの輪> <時生> <じゃマ〜ル活動>

メビウスの輪 星期一
第4回 Y2K
 

「どうも、今晩は。川下です。」
川下と名刺交換。川下の名刺には、電話番号、携帯番号の他に、電子メールアドレスも載っている。
「この電話番号、私専用の番号ですから。」
家の電話、ISDNなんですよ。一回線で電話とファックスが使えるし、インターネットもアナログ回線と違って高速。電話番号も、専用のが持てるし。川下はひとしきりウンチクを傾ける。
「はあ、そうですか。詳しいですね。」
コンピュータ関連の仕事をしている山沢、そんなことはよく知っているが、敬意を払っておいた。
 山沢が豊田に名刺を渡すと、
「あ、私、名刺切らしてますので。」
身元を明らかにしない点が、怪しいかもしれない。
「じゃあ、連絡先教えてくれますか。」
「何か書く物、ありますか。」
アドレス帳に住所と電話番号を書いてもらう。本当に名刺を切らしていただけのようだ。
「山沢さんも何か歌いませんか。」
「そうだなあ。」
一時間程カラオケにつきあい、お開きとなる。
「それじゃ、また。」
川下、豊田と別れ、また野馬と二人になる。
「何か、みんな勝手に歌ってたね。」
「そうですよ、みんな。」
「でも、だんご3兄弟さんとたいやきくん、鉄道の話ばっかりしてましたよ。」
「少し、オタクが入ってますね、あの二人。」
「仲、いいんですか。」
野馬はそれには答えずに
「だんごの方は、ちょっとね。」
クラブの有力女性メンバー、赤松こずえ。川下はそいつにつきまとっているらしい。
「ネットストーカーってやつですかね。」
 次の日、山沢は川下のホームページを探してみた。ホームページを開いてるって自慢するなら、名刺にアドレスも書いといて欲しいところだ。
 検索してみると、だんご3兄弟は沢山出てくる。あ、これだこれ。『ミホと鉄道』、これに違いない。見てみると、それは川下のホームページであった。何だ、この『悪魔の梢』ってのは。
 そのページを見ようとして、マウスをクリックすると『パスワードを入力して下さい』の表示。え?パスワードだって?そこを見るのはあきらめ、他を見る。ミホや鉄道の情報があるは予想通り。怪しいのはピラミッドパワーだった。
 川下に電話をして訊いてみる。
「ピラミッドパワーって何ですか。」
「それは、コスモスペースです。」
ピラミッドパワーでミイラが生き返るって、あの自己啓発セミナーかよ。結構自殺する奴もいるらしいし、ミイラにしろ熱風呂にしろ殺人じゃないか。正司も病気が治るとか言われたのか。
「もしかして、川下さん、信じてるんですか。」
「まさか。今、話題になってるから、ちょっと知ってることを書いただけですよ。」
直接関係ある訳ではないのか。一安心。
「ところで、悪魔の梢、パスワードが要るの?」
「あれ、まだ完成してませんから。パスワードに何を入力したって『工事中』しか出ません。」
別に秘密の内容が書いてあるのではなさそうだ。
 電話が終わると、母親が慌てている。
「これ、仏像が、ここに。」
正司の机の扉の中に、仏像が入っていた。
「これ、日蓮真宗検討会のか?」
「井戸君が持ってきたのかねえ。」
「そうかも知んない。」
クラブの人間に気を取られていたが、家の中の整理は全然していなかった。仏像なら井戸と関係あるに違いない。もちろん、それが正司の死と関係あるかどうかは分からないが。
 山沢はその仏像を持って、井戸の所に行った。
「こないだはどうも。」井戸が対応する。
「ところで、早速なんだけど。」
山沢は持ってきた仏像を井戸に見せる。
「これ、井戸君が正司にくれたの?」
「え、これ、何ですか。」
日蓮真宗検討会のご本尊は仏像ではない。逆に、仏像を拝むのは謗法といって、してはいけないこと。そんなことしてるから、正司は死んだのだ。山沢も供養のために入信すべきだ。井戸の口調には力がこもっていた。
 ところで、正司が死んだこと、誰から聞いたのか。その頃、検討会の集まりで本部の会館に泊まり込み。休憩時間に携帯の留守電を聞いたら、原田からの伝言が入っていた。泊まり込みだったから、葬式にも顔を出さなかった。と言っても、他の宗教の葬式には決して顔を出さない検討会だ。
 井戸とは関係ないことが分かったが、それではこの仏像は何なのだろう。今度は原田の所に行く。
「原田君、この仏像、井戸君とは関係ないんだけど、何だか分かる?」
「ひょっとして、この仏像じゃないですか。」
原田は読んでいた週刊誌の裏表紙を指す。
「これですよ。」
「え、願いが叶う仏像?」
恋人ができるペンダントとか、その類のようだ。
「何だ、井戸ちゃんかと思ってたよ。」
「違いますよ。井戸ちゃん、こんなのダメだって怒ってたでしょう。」
「よく分かるなあ。」
正司の仏像は、単なる開運グッズであった。
 山沢は再び川下のホームページを見る。何か手がかりになるものはないかな。そうだ、掲示板だ。掲示板のタイトルをざっとながめてみる。
『ネットストーカーに気をつけよう』
『初めて書き込みします』
『ミホ結婚おめでとう』
書き込みが色々あるな。その中で目を引くもの。
『山沢さんとY2K問題』早速、本文を開く。
『突然のことで、大変驚きました。ご冥福をお祈りします。山沢さんの死は、Y2K問題と関連しているかもしれません。詳しいことは元旦になれば分かります。インターネット一一〇番。たいやきくんより。』
おいおい、Y2Kって、正司が死んだのは二千年じゃないぞ。どういうこっちゃ。
   つづく    (C)二〇〇〇 星 期一
 
 
 

時生(トキオ) シャレット
第1回

「 はあ、今日も仕事か」午後五時からの出社を控えて小野田は、憂鬱だった。世の中はミレニアムだとか、千年紀だとかで浮かれているが、仕事上恐らくこんなに緊張した日は二度とわすれないであろう。何故なら小野田は西洋ライフの情報システム部の社員なののだから、Y2K所謂「2000年」問題の真っ只中にいるのだから。
  「もし、システムがこけたら」真っ先にリストラやなと言いつつも通勤電車の方向へと体が向かう小野田だった。ふと、気が付くといつもの習慣で北武線に乗っていた。
「やれやれ」昨日は、自分のパソコン直すのに時間かかってしまって大変だったな。
昨日は自宅へ帰宅すると、早速家にいる祖父が倒れたて夜中に病院探して大変だった。
結局、今日やらなきゃって思って作業に取り組んだのが午前三時からっだったしな、まあ何とか古い機種だったけどインターネットでメーカーが提供するBIOSは手に入れたしY2KモジュールのOS用のやつも手に入れたしな、しかし、鍋島には参ったなパソコンの使い方も知らないのにいつも高価なマシンを買っては、使い方が分からないなんて金持ちは違うね。そうこう、しているとで車内からアナウンスが流れてきた。本町、本町アナウンスの声はいつもと変わらない、これからの6時間15分後に何が始まるのか?小野田は、これから始まる何かを12月にしては、生暖かい世紀末の天候に感じる気がした。
  会社に到着すると、早速、パソコンに電源を入れるデータベースを立ち上げメールをチェックする。昨日、主任が送ってくれたメールが届いている。昨日までのスケジュールを確認して他の社員に分からないようBCCで配信されている。やれやれ、バックアップのスケジューリングとログオンスクリプトの見直しなんて、今頃、何いってんだ。
「小野田さん」
「おはよう」
小野田は早速、仕事の話を切り出した。
「昨日までにバックアップテープ全部交換したよね?」
「ええ、全部完了してますよ」同僚の川崎は答えた。
「しかし、暇だな」なんかゲーム持ってきた。
「いや、後で飯食ったあとにしようよ」
川崎はそういうとシステム室へ消えていった。
「2000年か俺の人生もいよいよ区切りだな」さてとがんばるか。
2000年まで後5時間。
バックアップの確認が終了して、デスクへ戻ると、電話が鳴った。友人の早川からだった。
「もしもし」小野田はが喋りだした。
「今日さ、グリディングメール」出したから見ておいて。「分かった」今、仕事中だから2000年にまた会おう。その時、川崎が背後から声を掛けた「飯食いにいきましょう」
 
 
 

じゃマ〜ル活動 星期一
第13弾

 じゃマ〜ルに次のような記事がありました。

 結婚情報サービスを利用したことある方、よかった点よくなかった点教えて下さい。
 イナイ歴25年。何か行動してみたいけど、恐くて………。

 昔なら、「フリーペーパーにも独り者がゴロゴロしてるなあ、ここは一つ、いい人を捜してやるか」てな世話好きの奴が、合コンとかお見合いとかの話を持ってきてくれたんでしょう。そういう出会いの提供は難しいけど、結婚情報サービスのレポートをできる範囲でしていきます。
 コンピューターのシステムエンジニア、33才。職場を見回すと20代の若手プログラマーがウヨウヨいるけど、30代の未婚はまだ若造。40才を過ぎた課長、副課長クラスでも独身がゴロゴロしている。上司がそんなんでは、見合いの話なんか持ってきてくれるはずがない。人に紹介するんだったら、その前にまず自分だもん。そんな環境にいるあなた、現状打破してみませんか。心配ありません。そんなあなたのためにあるのが結婚相談所なのです。う、口調が笑うセールスマン的だ…。
 「結婚」を目的とするなら、合コン、ナンパ、友達の紹介、見合い、じゃマ?ル、インターネットと手段は色々あります。けど、何としてでもというんなら、結婚相談所を利用するのも賢いかも知れない。そこで、ボチボチ資料を取り寄せて調べてみました。
 会費は大手が月1万円、2年間で20?30万円といったところ。会費なしでお見合いを設定する毎に1万円とか、成婚したら20万円とかいうシステムのところもあります。市役所などの公共機関では、完全無料もあるようですが、そこの資料は入手しませんでした。
 会費の高い所はお金を払ってでもという高収入の人が多くて、会費の安い所は安月給の奴しか来ないのか。確かに、収入が安ければ高い会費を払うのは困難かも知れません。また、会費が安ければ遊び感覚で入会する人もいるかも知れません。でも、気に入らない奴がいるにしても、ベストパートナーを見つける可能性もあるのだから、何とも言えません。
 たかが結婚に何十万も、と思うかも知れないけど、外国人花嫁を何百万かで「買う」という例もあるし。足の裏を見たり、ミイラになって何千万も払うのとは訳が違うでしょう。私の感覚では、結婚相談所に何十万も注ぎ込むんだったら、200?300人の出会いが可能な他の場所に行くな。そこで出会った人が結婚相手としてどうか、という保証はないけど。
 前ぶりが長くなりましたが、今度お話しするのは「グリーンファミリー」。赤川次郎の小説『バージン・ロード』で出てくる「エバーグリーンホーム」の舞台となった所です。
 あれれ。紙面が終わったので、次号へ続く。
 
 

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