2000年4月号


<メビウスの輪> <サイバー難民> <コラムな人>

メビウスの輪 星期一
第7回 ドラッグ

 セミナーを受ければ、極端に言えば何でもできる。金持ちになったり、幸せになったり。そうそう都合よくいくもんか。定説は狂ってるし、悪魔払いも怪しい。不審な点は沢山あるぞ。
 そして三日後、山沢はセミナーから帰ってきた。セミナーに行く前に『自己啓発セミナー』という本を読んで、とりあえず命までは取りそうもないことを確認してはいたが。とにかく、ミイラ取りがミイラにならず、無事であった。早速、クローバー電器の社長に報告。
「山ちゃん、どうだった。」
「あ、セミナーは別に平気でした。」
象の鼻のセミナーは三段階に分かれている。第一段階は会社の新人研修でもやりそうな内容で、それほど怪しくはなかった。その後、第二段階、第三段階と進むと、マルチ商法に走る奴や、象の鼻の幹部になる奴もいるようだが、とりあえず第一段階で帰ってきた。正司も第一段階しか行ってないし。
「そうか。それで、何か手がかりは。」
「手がかりはないけど、大丈夫ですよ。」
「誰か、関係者でもいたのか。」
「いました。犯人はすぐ捕まりますよ。」
関係者といっても正司と顔見知り程度の奴がいただけで、犯人がいた訳でもない。それだけ言うと、山沢は意気揚々とクローバー電器を後にした。
 伝言ダイヤルで知り合った娘に、肌にいい薬だと言って睡眠薬を飲ませる。そして、乱暴した挙げ句に冬空の下に放置。そして凍死。その犯人が、正司のいたサークルの会長、竹崎。そいつは他にも色々な薬を持っていた。ひょっとして家にある風邪薬も関係あるのか。原田の家に行ってみる。
「原田君、これだよ、例の薬は。」
原田は医療関係の仕事をしていて、薬にも詳しい。原田なら分かるのではないか。
「この瓶は、市販の風邪薬みたいだけど。」
「ちょっと見せて下さい。」
原田は瓶の中の錠剤を見て
「メーカー名が入ってますね。」
「やっぱ、市販品?」
「あれっ、これは医者でもらうやつだな。」
「医者の薬って、市販の瓶に入ってるの?」
「山沢さん、いいところに気が付きました。」
原田は机の上から『医者でもらった薬が分かる本』を取り出し、調べ始めた。
「やっぱり、これ、風邪薬ですよ。」
普通の風邪薬だった。しかし、なぜ市販薬の瓶に入れてあったのだろう。
「やっぱり、竹崎かなあ。」
「誰ですか、その竹崎って。」
「あの、伝言ダイヤルで死んじゃった事件あるじゃん。」
「知ってます。死んだ娘、JAの職員でしょ。割と可愛かったですよね。」
「あの、犯人だよ。」
「そんな奴が、正司君の友達なんですか。」
「よし、竹崎の所に行くぞ。」
「そいつ、今頃ムショの中じゃないですか。」
「それもそうだ。」
 家に帰ると、警察から電話。竹崎の持っていた薬の一部が正司の所に流れていたらしい。風邪薬を沢山飲ませるなんて、どこの飲食店経営者だ。これを飲めば風邪も一発で治るよ、と煽ったのか。一度に沢山飲めば効き目も早い、とでも言われたのだろうか。参考のため、薬の瓶を警察に渡しておいた。
 野馬、原田と三人で話し合う。原田が
「この線で行くと、その竹崎が怪しいな。」
「それじゃあ、Y2Kは何なんだ。」と山沢。
「だんご3兄弟とたいやきくんは。」
薬に詳しいからって、そう決めつけるなよと野馬。
「その辺は関係ないんじゃない。」
 状況を整理すると、風邪で一週間仕事も休んでいる。そこへ竹崎が現れ、大量の風邪薬を飲ませる。それで死んでしまえば、保険金ががっぽり。待てよ、竹崎は保険なんて掛けてないし。じゃあ、友達だからと薬を渡しただけなのか。
「もし、竹崎が犯人だとしたら。」
「でも、無理矢理飲ませた訳じゃないだろ。」
「それに、保険を掛けてたのは会社じゃん。」
竹崎の薬がきっかけでフラフラになったことは間違いないだろう。しかし、その目的は何だ。どいつもこいつも犯人に思える。いや、ただの事故か。象の鼻自体は、人殺しはしないようだし。
 推理に行き詰まってもう何日。調べれば調べるほど、怪しい奴が出てくるし。そんなある日、山沢の下に電子メールが届く。
『何事も行動が基本です。教育、受験、頭でっかちに実践できるのでしょうか。宗教、セミナー、何かにすがって解決できるのでしょうか。趣味、サークル、遊んでばかりで実現できるのでしょうか。会社、ビジネス、労働を切り売りしても資本家の思うつぼではありませんか。』
行動が基本?何をするんだ。どうせ、ネズミ講か何かのチェーンメールだろう。山沢は特に気にもとめず、そのメールを削除した。
 次の日も同じ所からメールが来ていた。
『死んで幸せになるのでしょうか。今日一日を感謝の気持ちで過ごすことはできないのでしょうか。選挙で世の中が変わるのですか。』
今度は宗教じみてるけど、宗教にすがるなとか昨日は言ってたんじゃないか。
 そして次の日、山沢がインターネットに接続してメールを見ようとすると、なかなかメールのダウンロードが終わらない。あれ、どうなってんだ。よく見ると、メールの件数が一五二三件!
「うわー、こいつ、何だよ。」
メールボックスはそいつからのメールで満杯だったのだ。悪質な嫌がらせだ。でも、誰がこんなことをするんだ。チャットや掲示板でケンカしたこともないし。プルルル。携帯が鳴る。
「はい、山沢です。」
「信濃です。」
「おう、信濃君。セミナーは平気だったよ。」
「それは良かったです。でも、大変です。」
「どうした。」
「Y2Kが動き出しました。」
   つづく    (C)二〇〇〇 星 期一
 
 

サイバー難民 紀 飛湯麿
第2回

 アフリカの女は美しい。肌の黒白問わず。
 今まで日本で撮ってきたどんな女もかなわない。
 表情の豊かさ、そしてファインダーを覗き込む眼がとても。食い物と快適な環境が、女の美しさを台無しにしているとしたら、これは大きな皮肉だ。
「ミスター、申し訳ありません。航空会社がストに突入してしまい、航空便が飛べなくなってしまいました」
「そいつぁ困ったな。で、何日くらいかかりそうなんだい?」
「それはちょっと...」
 困った。せっかく仕事をとってきたのに、ネガを送れないのならどうにもならない。締切は、二日後だというのに。
「ミスター、お急ぎでしたらここで現像して、スキャナで読み込んで電送してはいかがでしょう?」
「こいつはデジタルカメラじゃないんだ」
「ご安心ください。今の読み取り技術はポジ印刷と変わらないレベルですよ」
 いきなりパソコンのお世話になるとは。しかたなくポジをスキャナで読み込み、電送することにした。バツの悪い顔で助手のクリスに頼む。こら、クリス。パソコン使えないくらいで笑うんじゃねえ。
 実は、このレポートも、インターネットを介して送っている。で、どうやっているかって?携帯電話で入力してんだ。これくらいのボタンしかなけりゃ、俺にだって扱える。携帯電話は、ショルダータイプの頃から使っているからな。とはいっても編集者の要望でそうしているだけで、ホントのところはFAXで送りたいと思っているくらいだ。
 しかし、FAX用紙を買いに市場まで行ったとき、それをあきらめた。
「FAX用紙の在庫はこれだけです。お客様の機種では取り寄
せになります。カタログはこのフロッピーの中にありますので、あちらのパソコンでお調べください」
 結局これか。アフリカでも。これじゃパソコンを使わない生活なんて未開の地まで行かないと無理じゃねえか。そういや、先月やってたコイサンマン5で彼らも
ノートパソコンを持ってたな。
 アフリカの夜は寒い。
 イメージでは暑くてたまらんという感じなんだろうが、俺は、赤道から離れた国にいるし、標高も900メートルあり砂漠も近い。そういう事情もあり、女が非常に恋しくなる。
 まあ、よくしたもので、街頭には売春婦もたくさんいるから、金さえあれば大きな苦労
はない。いろんな趣味に合わせてというわけではなかろうが、売春夫という存在もあり、さらに、時代を反映してか、レディースユースまである。このあたりは、旧宗主国フランスや、近隣国の影響もあるのだろう。
 言葉は、だいたいにおいて英語が通用するので、不自由しないが、ダウンタウンの奥のほうへ足を踏み入れると、フランス語がはばをきかせてくる。
「ムッシュ、100フランでいいわよ(2000円)」
「あいにくクレジットカードしかなくてね。VISAが使えるんだったら相手してやってもいいぜ」
もちろん現金は300ドル1000フランくらい常に持ち歩いているが、相手によってはこうして断る。毎晩通うバーのドアを開けると、クリスが、女と交渉していた。どうやら値切っているらしい。ふん、パソコン使えねえやつを笑っているひまがあったら写真の腕でも磨きやがれ。そうすりゃモデルのほうからすり寄ってくるぜ。
 カウンターにかけると、女バーテンのサラが近づいてきた。
「おねがい...」
つづく
 
 

コラムな人 シャレット

   視聴者の皆様、お久しぶりです。
連載「時生」等現在休載中ですが来月号からは復帰する事をお約束します。
    最近の話題と言えばやはりインターネットですかね、日本もいよいよ高速
回線化に向けてインフラが進んでいますがやはりネットワークは欧米のように
国民・市民に無料といかなくても格安で提供してもらいたいと思います。
このままだとメディア発信をする有能な人材が損失したり都市不活性化に繋がる
かもと思ってしまします。
例えばインターネットで作家になったり所謂サイバーアーティストとか・・・
FPの皆さんはどう思います。

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